目新しさのアピールは「技術」ではない?

こないだの記事へのcocoonPの気合の入った言及記事が上がってきたので、さっそく反応します。最初コメント欄に返答しようかと思ったのだけど、思いの他長くなってしまいまして。
というか僕のような見る専とは違ってcocoonPは作るほうの人ですから、この記事への反応は遅くてもいいしスルーされても気にしませんので、気楽に読んでくださいな。
僕がなんだかんだ偉そうなこと言っても、この業界何かを作り出してる人が一番偉いのです。

ただ、敷居さんが言及している魔汁Pの発言は、ただの謙遜でしょう。あの動画はsitaPの編曲や、こんにゃくP、わかむらPの止め絵だけがすばらしいのではありません。

アイドルマスター 蒼い鳥 sitaP Remix 千早‐ニコニコ動画(RC2)
↑あの動画
あいや、あの魔汁Pの動画の素晴らしいところが編曲と止め絵だけだとは僕も思ってませんよ。地味な編集の妙については確かに上手く伝えるのは難しいですが、僕もたいがい大量に見てはいるので全くわからないというわけではないです。なので最初は僕も謙遜だなこりゃ、と受け取りました。
でも、ほぼ同時に発表された蒼い鳥M@STER VERSIONも見ると、ただの謙遜でもないのかなーと思えてきます。
アイドルマスター 蒼い鳥 M@STER VERSION 千早‐ニコニコ動画(RC2)
まあぶっちゃけ僕の目から見るとこっちのほうが手間かかってるし技術的にも凄いように見えるんですな。素晴らしい出来の動画だと思います。でも、こっちはあんま伸びてない。
そのへんの事情もあって、内心忸怩たる思いがあるのかもなあ、とか思ったり。ま、あくまで想像ですが。


でもそんなこと思っているくせに、実際にはアレンジ版のほうを大きく取り上げる。僕はそういうやつです。作者の立場を想像することはあっても、結局自分の好みを優先させる。

魔汁Pの過去作もどれもそうなのですが、あの動画には、カメラワーク、ダンスの選択など、アイマスMADにおいて不可欠だけれども実に地味なためあまり省みられない「編集」という技術がものすごい高水準で詰まっています。自分は、MAD動画の作り手の「技術」のキモというのは、そういうところにあると思います。

なぜなら、ここでcocoonPがキモだと言っている「編集技術」以外の部分も、僕にとっては重要だからです。
あの作品は編曲と止め絵の効果によって、僕の中でM@STER VERSIONのほうの評価を超えてしまったのですね。その気持ちに、嘘は吐けない。仮にそれが技術ではないものを評価した結果だとしても、自分の気持ちに嘘は吐けないんです。「創作物の魅力は労力や技術だけでは決まらない」。


で、今回焦点となってる「技術」という言葉について。
僕が使い方を間違っているんなら「目新しさの魅力」なり別の言葉に置き換えることに抵抗はありませんが……cocoonPの定義する「技術」ってさすがに範囲狭すぎません?
僕の感覚だと、「ある程度不自然さを残すなどしてアピールする」ことを技術と呼ばずして何と呼ぶのかって思っちゃいます。「技術という言葉の持つイデア」という表現をされてますが、それはもはや別の言葉で表現されるべきものなのでは。
「派手な演出のみを技術だと思いこむ」のが見る側が陥りやすい錯誤*1であるなら、「ウケるためのアピールは技術ではない」と切り捨ててしまうのもまた、作る側が*2陥りやすい錯誤なのではないでしょうか。個人的にはその狭間にこそ面白いものがあるんじゃないかと思ってたり。人の目を全く意識しないのも問題だ、個性がスポイルされてはそれはそれでつまらない、というような。


地味な演出のみで強烈な魅力を実現している作品は確かに凄いです。しかし、使えるあらゆる手を使って強烈な魅力を出しているものも同様に凄いと思う。そして、両方を並べて前者のほうが尊いと僕は考えません。同じくらい良いと思ったのなら、見る側にとってそれは等価なのだから。
繰り返しますが、良いものは良いのです。それをひっくり返すことはできない。少なくとも、それを見て良いと思った視聴者にとっては。僕はあくまで主観の話をしていたつもり。
そこを変に拘って玄人好みのものしか良いと思えなくなるくらいなら、僕は素人と呼ばれてもかまわない。てか実際素人だし。

完成されたもののみを見て、その背景を理解しないままに技術について述べるのはとても危険なのではないかと感じます。逆に言えば、そこで(それがウケるかどうかとはまったく関係なく)どのような技術が使われているか、どのような効果を挙げているか、ということを分析できる方こそが、優れた「批評」を行うことができる視聴者ではないでしょうか。

あとこれね、そのまま受け取るとよくわかってない素人は口出すなって理屈に見えちゃいます。
もちろんcocoonPが言いたいのはそういうことじゃなくて、口を出すのはいいけど中途半端な理解で技術についてああだこうだ言ってはいけない、という意味だと思いますが……それも僕は閉じていく方向だと思う。それでは「優れた批評を行うことができる視聴者」がそもそも育たないんでないかと。
だってですね、見る専が詳細な感想を述べれば間違ってる部分が出るのは当たり前じゃないですか。技術に一切触れない感想はそもそも詳細な感想とは言わないでしょうし。それを危険と言ってしまうと何も書けなくなってしまいます。作品に詳細な感想を述べることが出来るのは、全ての技術を理解できる作者のみということになりかねません。感想ブログ消えます。それは望むところではないでしょう?
むしろ、僕は間違ってる部分があれば直接指摘して貰える環境のニコマス界隈ってまだ恵まれてると思うんだよなあ。「間違っててもいいからガンガン感想言え、間違ってたら指摘してやるから」くらいに構えててくれるとありがたいっす。いや、そりゃ動画コメントで間違ってる理解を思いっきり垂れ流されたら嫌だろうけどさ。ブログなら直接指摘できますし。


……まあ相変わらずというかなんというか意見が対立しまくりですが、卓越した技術によってあまりに自然になりすぎその凄さが視聴者に気付かれなくなってしまうような動画がもっと評価されるべき、という趣旨には諸手を挙げて賛成します。
視聴者の側に見る目のある人がもっと増えて欲しいと願うのは、作者さんなら当たり前の欲求ですよね。それに関しては僕も出来るだけ精進したいとは思ってます。作者と同じレベルでわかれと言われるとちと厳しいですが、なるべくそういう気付きにくい部分もわかるようになりたい。そっちのほうが楽しいでしょうから。
しかし、僕はこれからも「誰にでもわかる良さ」をそれと同等かそれ以上に評価し続けます。それがcocoonPにとっては技術と呼ぶに値しないものだったとしても。


この素晴らしい世界を、玄人の、マニアのための狭い世界にはしたくないから。

*1:これは確かにありますね。僕も気を付けたいところ。

*2:または重度の廃人が