『ハレ晴れ』のダンスが気持ちいい理由

そもそも、animationという表現方法はダンスには向いていないところがあります。なぜか、と問われれば言葉で表現するのは難しいのですが、ハレ晴れユカイについては多くの方々が実際に踊ってらっしゃる動画が多かろうと思いますので、京都アニメーションが制作したそれと見比べていただければわかろうかと存じます。
〜中略〜
個人的には両者の違いがもっとも分かりやすいのは、最後の決めポーズに"至る"部分を比較することだと思います。ダンスをanimation上で表現することは、枚数を多くすれば解消できる問題ではないのです。したがって、試みとしては評価しうるのですが、結果からみてしまうと「実写だと問題なくできるようなことをわざわざanimationでやった意味はなかったじゃん」というつっこみを回避しづらいということがございます。


――らき☆すたに対する当サイトの見解への皆様方の反響によせる

先日紹介したid:Shsgsさんのハレ晴れのダンスに対する批判。絡みませんよーと宣言したそばからアレですが、僕は元のED、完全版、ニコニコなどを合計すると軽く何百回も見てるので、反応せずにはいられませんでした。それに、これを機会にダンスムービーを紹介しつつ、アニメでダンスを表現することの魅力は何なのかを考えてみるのも面白いかな、と。


全て引用してしまうと長くなってしまうので省略しましたが、論旨は伝わるんじゃないかと思います。実際のダンスの動きをアニメで表現することは難しく、ハレ晴れのダンスも現実の動きを表現できていないので、試みとしては評価できるが結果としては失敗しているという結論ですね。これ、ハルヒダンスを好きな人なら思わず「なんでそうなるのっ!?」と叫んでしまいそうになる結論だと思います。
僕はアニメの表現にはさほど詳しくないし、作画枚数が何枚使われてリアルなダンスを表現している……みたいな反論はできません。ですが、この批判はそれ以前の問題として明らかに不自然な部分があるんですよ。


順番が逆なんです。


ハルヒダンスを踊っている人の動きを再現したわけじゃなく、アニメのダンスを見て感動した人が次々に踊っているわけで。この場合アニメと実際のダンスの差異を問題にするなら、「ハルヒダンスを踊っている人はたくさんいるが、元がアニメなので魅力を十分に再現できていない」という論になるはず。こういう指摘なら既にけっこうされていて、実際ハルヒダンスの魅力をそのまま表現できている人は今のところいません。
その代わり、キレのある動きやテクニックで魅力のあるダンスにしている人ならいますね。

ここまでくると、元のハルヒダンスとは別にダンス単体としての魅力が出ています。ただ、指摘されているとおりアニメと実際の動きを合わせるのは無理があるため、元のダンスシーンの魅力を完全に再現することは難しいと思います。
では、なぜそんな無理をしてまで踊る人がここまで大量に出てきたのでしょう? しかも日本だけの現象に留まらず、世界中に波及している。


全世界、約30ヶ国でハレ晴れ! ここまで来ると、ネタで笑うとかいう次元を超えて感動すら覚えます。全世界の人々を魅了するハルヒダンスの魅力とは、いったいなんなのでしょう? これを考える上で、実際のダンスのジャンルの一つである「アニメーション」*1がいいヒントになると思います。


以前のエントリでも紹介済みですが、「アニメーション」とはこのような不思議な動きを追求したダンスのことです。有名なマイケルジャクソンのムーンウォークなどはアニメーションダンスの基本技の一つ。アニメのような現実とは違う動きを再現しようというジャンルなので、そういう名称が付けられているんですね。
そう、アニメの動きというのは「実写だと問題なくできるようなこと」などではないのです。上記エントリで批判されているアニメーション特有の動き、それこそが逆にダンスの専門家をも魅了して一大ジャンルになるほどの魅力の核なのではないかと。普通のダンスでは見ることのできない動きをアニメなら表現することができるのです。
ハルヒダンスの場合、枚数の多いよく動くアニメーションで一緒に踊りだしたくなるような「現実のダンスの魅力」と、現実では見ることの出来ない奇妙な「アニメの動きの魅力」の両方を表現したことがここまで人気が出た原因じゃないでしょうか。


ハルヒ以外にも魅力的なダンスシーンを描いているものはあります。ハルヒほど現実の動きに近づけようとしていないので、「アニメ特有のダンスの魅力」を説明するのにはこちらのほうが適しているかもしれません。


なんか紹介済みのものばっかりですみません。これなんか間違っても現実に再現なんか出来ない動きですよね。ダンスといっても複雑な動きをしているわけではなく、同じ動きの繰り返し。でも、圧倒的に気持ちいい。音とアニメキャラの動きが合わさることで、強烈な中毒性が発生している。まあ音に関してはMADなので、実際の元ネタのふたご姫とは違うんですが。


要するに、見た人が快感を覚える音と動きを実現できればそれでいいわけで、何も実写のダンスの動きを完璧に表現する必要はないんですよね。「わざわざアニメーションでやること」そのものに意味がある。
「実写の動きを再現できてないので失敗」という結論は、その前提としている基準がおかしいのではないでしょうか。

*1:そのまんまな名称ですが、実際こういうジャンル名